穏やかな空

3.ちょっとそこまで

 不意に席を立った彼の腕を思わず掴んでしまうわたし。彼は振り返って、頭をぽんってしてくれる。
「ちょっとそこまで行ってくるだけだから」
「......どこ行くの?」
「郵便局。ちずも一緒に行く?」
「うん」
 小さなかばんにおさいふとハンカチとポケットティッシュだけ入れて、手を繋いで家を出た。彼は大きな封筒を脇に抱えてる。きっと編集部に原稿を送るんだ。

 外に出ると、思ったよりずっと暖かくてほんのり春のにおいもした。空はぼんやりした薄ぐもりで、まるでわたしの今の気分をそのまま表しているようだった。
「ごめんね」
 ぽつんと謝ると、彼はすこし不思議そうな顔をした。
「ごめん」
「なに言ってんの」
 こっちに向き直って、優しい顔をする。
 粟生はかみさまみたいな人だと思う。彼がいれば、わたしは大丈夫。
 突然いなくなってしまうんじゃないかっていう不安はやまなくて、これからも困らせちゃうことたくさんあるかもしれないけど、いつか、いつかね、彼が困った時には今度は私が助けてあげられればなぁって思うんだ。
 すっかり気分も晴れて、郵便局が見えてきた。