(新作出てねーかな〜)
そんなことを思いながらアイスクリームコーナーへ向かう。
夕方6時過ぎの店内は仕事帰り風のお客様や夕食の買い物に来たお客様でにぎわっていた。
俺も仕事終わりのこの時間によく買い物に寄るから、見知った顔がチラホラ。
(ん?)
アイスコーナーに、やっぱり見知ったお客様。
年はたぶん俺と同じくらいかな。
サラサラそうなちょっとだけ長い黒髪。
細身だけど身長は俺よりわずかに高い。
いつも眠そうなどこか気だるそうな雰囲気の彼をこの時間に見かけるのは珍しい。
このお客様を目にするのは、いつもお昼休みだった。おやつを物色しにお菓子コーナーに行くと、週2くらいの確率で出会う。
大抵グミとか飴とかちょっとつまめそうなものの前でしばらく思案して、2つほどカゴに入れていく。
なんでこんなに覚えてるのかといえば、この年頃の男性のお客様はこのスーパーでは少し珍しいからだ。正午あたりのお菓子売り場だと特に。
それに見るたび真剣に商品を選んでいるものだから。
口を聞いたこともないけれど、そんな彼になんとなく親近感を抱いていた。
やがて、アイスをカゴに入れて、そのお客様がレジのほうへ向かっていく。
俺もハーゲンダッツの新作をカゴに入れると、レジへ向かった。
セルフレジも導入されているけれど、夕方のレジはやはり混み合う。
にぎわうなか、セルフレジで会計していると、
「朔ちゃん!お願い、これあのお客様に届けて!」
「へっ!?」
レジのベテランの山中さんが叫ぶ声に振り向くと、何かカードみたいなのを持って、もう片方の手でちょうど出て行こうとしているお客様を指している。
……さっきのアイスコーナーの人だ。
「忘れ物ですか?」
急いで受け取ったそれは診察券。
(え、結構歩くの早い!)
慌てて店内を出て彼の後を追った。
「お客様!」
叫ぶけど、気づいてもらえない。
と、あるマンションの入り口に彼が入って行こうとしている。
(家、近!)
このままじゃスムーズに忘れ物をお返しできない。
「林様!!」
あまりしたくなかったけれど、仕方なく診察券に記されたお客様の名を叫ぶ。
「え」
ようやく立ち止まった彼が不思議そうな顔で俺を見た。
「お客様、お忘れ物です!」
診察券を彼に差し出す。
恥ずかしながら息切れしていて、日頃の自分の運動不足を呪っていた。
「あ、そこのスーパーの…! すみません! すみません! ありがとうございます!」
林さんは恐縮しきった様子で、俺に何度も頭を下げて診察券を受け取った。
この方、こんな反応なんだ。正直もっとドライな人なのかと思ってた。
「……あの、よかったら…、お茶とか飲んで行かれますか?」
「へっ!?」
息を切らしていたから気をつかってくれたのだろうか。知らない人を家に上げるようなイメージはまるでなかったので、声を裏返らせてしまった。