(新作出てねーかな〜)
そんなことを思いながらアイスクリームコーナーへ向かう。
夕方6時過ぎの店内は仕事帰り風のお客様や夕食の買い物に来たお客様でにぎわっていた。
俺も仕事終わりのこの時間によく買い物に寄るから、見知った顔がちらほら。
(ん?)
アイスコーナーに、やっぱり見知ったお客様。
年はたぶん俺と同じくらいかな。サラサラそうなちょっとだけ長めの黒髪。細身だけど身長は俺よりわずかに高い。柔らかそうな素材の襟付きシャツにジーンズ、黒のショルダーバッグをかけている。
いつも眠そうなどこか気だるそうな雰囲気の彼をこの時間に見かけるのは珍しい。
このお客様を目にするのは、いつもお昼休みだった。おやつを物色しにお菓子コーナーに行くと、週2くらいの確率で出会う。
彼は大抵グミとか飴とかちょっとつまめそうなものの前でしばらく思案して、2つほどカゴに入れていく。
なんでこんなに覚えてるのかといえば、この年頃の男性のお客様はこのスーパーでは少し珍しいからだ。正午あたりのお菓子売り場だと特に。
それに見かけるたび、真剣に商品を選んでいるものだから。
今もどのアイスにするか迷っているみたいだ。時折立ち止まって商品を見つめてる。
……その姿は、まるでーー、
ありありとよみがえってくる、あなたがこのスーパーに通っていた頃のこと。
「さっくん、どっちがいいと思う?」
「えぇ、もう両方買っちゃったらどうですか?」
「そんなのダメ! 予算オーバーになっちゃう」
そんなことを言って、マスカット味のチョコかレモン味のチョコか、両手に持って迷う彼女。
俺より年上だなんて忘れてしまいそうになるくらい可愛らしくて、旦那さんとの生活を守ろうとする姿さえもいじらしくて愛しくて。
幸せで笑っていてほしいって思ってた。
こうやってたわいのないやり取りができたら、俺はそれでいいって思ってた。
もう少し、あと少し、こんな日々が続けばと、ずっと祈ってた。
キュッと喉の奥が痛む。
お客様はどのアイスにするか決めたらしい。ひとつカゴに入れて、レジの方へと向かっていく。
金木犀の香りのなか、このスーパーの前で旦那さんから渡されたあなたの手紙の最後には、「ありがとう」と「わたしを忘れないで」
忘れるわけないじゃないか。
……忘れられるわけ、ないじゃないか。
こんなところで泣いてしまうわけにはいかない。目にとまったアイスをカゴに入れると、俺もレジへと足早に向かった。