次々に打ち上がる花火の音。
浴衣に慣れない下駄。
りんご飴。
「朔、可愛い」って照れたように微笑む君。
そんなことをドドンって花火の音を聴きながら妄想してた。
「ごめんな、朔。急ぎの仕事入っちゃって…」
「いーよ、仕方ない。アイスコーヒー淹れよっか?」
「ありがと」
本当は見に行くはずだったんだ、花火。
でも仕事なら仕方ない。
仕方ない…けど、正直悲しい。
だって、ずっと前から楽しみにしてたんだ。
だけど仕事中の健太にそんな俺の気持ちを悟らせてはいけない。
努めていつも通りに振舞っていた。
「はい、コーヒー」
コトンとグラスを置くと同時に健太が俺の手首を掴む。
キュッと引き寄せられて、一瞬だけ重なる唇。
「明後日は時間あくから、遊園地行こ。朔、ジェットコースター好きだろ?」
「……健太は絶叫系苦手そう」
そう言って様子を伺うと、苦笑する君。
ビンゴだ。
「ムリしなくていーよ。…だから、もーちょっとだけ」
言いながら健太に口付ける。ほんのり苦いコーヒーの味。
健太が俺の後れ毛を指ですくう。
「今日、ほんとごめんな」
……花火行けなくてめちゃめちゃ残念がってんのバレてんのかな。
俺、態度に出やすいもんな。
「明後日埋め合わせしてくれたらだいじょーぶ」
だって、2人で楽しめなきゃ意味ないからさ。
健太と俺は全然タイプが違う。
仕事の時間も違う。
うまくいかないことだってきっといっぱいあるけど、それだって2人で乗り越えていきたい。
そう思えるくらいに好きになっちゃったんだ。
優しくて繊細な君を。
ちょっと照れ屋で、そのくせスイッチ入っちゃうと結構グイグイ来る君を。
「今日泊まってってい?」
ちょっと甘えた声を出してみると、
「早く仕上げるから、待ってて」
頷く君。
ドンッと花火の音。
「来年は見れたらいいな」って言葉が重なって、顔を見合わせ笑った夏の夜。