背にふわりとあたたかな感覚。
朔が肩にブランケットをかけてくれた。
「風邪ひくから、中入ろ?」
深夜三時のベランダ。
この時間の空気は特にキンと澄んで好きなのだけれど、朔にとっては良い行為に映らないらしい。おとなしく頷いて室内へ戻る。
「ココア入れたから、飲みなよ」
テーブルには湯気の立つマグカップが二つ。
座って一口飲むとじんわりと身も心もあたたまる。
俺がココアを口にしたのを確認してから、朔もカップを手にとって一口。
「んん、冬はやっぱココアだよな」
そう言ってのほほんと笑うその顔に、「眠れないの?」と聞かない君の心遣いに、心がほどけていく。
眠れないことには慣れていた。
けれど、眠れない脳内によぎる未来への不安やさまざまな心配事に対してはなす術がなくて、苦しくてたまらない時はベランダに出る。
外の空気を吸うと少し頭が冷えて楽になる。
「ごめんな? ありがと」
俺は在宅ワークだから融通がきくけれど、朔は明日も早くに家を出ないといけないのに。
「お礼、してもらおっかな〜」
急にイタズラっぽい顔で君。
グイグイと俺をベッドまで引っ張って、先に自分が毛布に包まって手招きしてくる。
入れってことだよな…。
状況がのみこめないまま、とりあえずベッドに入ると、キュッと抱きしめられる。
「朔…?」
「今から健太は俺の湯たんぽ代わり! じっとしててな?」
「へっ?」
やっぱり自体が掴めない俺に、
「あー、あったかい。しあわせだー」
本当に幸せそうな声で言ってくるものだから、俺も朔の背に手をまわす。
確かにあったかい。
ポカポカして、なんだかーー、
「眠くなってきた」
俺の前に朔がそう言った。
うん。
好きな人の体温ってすごい。
心までふんわりと包みこんでくれる。
「眠れなかったらさ、こーすればいいんだよ。俺幸せ。健太も眠れる。な?」
……甘えん坊と見せかけて、甘やかされているのは俺なのかもしれない。
そんなことを思いながら、やんわりと眠りに落ちたある冬の日。