穏やかな空

第2話

「おにいちゃん、今日も暑いねぇ」
このスーパーの常連のおばあさん、今日も優しい笑顔を向けてくれる。
「そうですね〜。アイス溶けないように氷入れてってくださいね」
そう言って、一番上に置くためにレジ台に置いていた食パンをお客様のマイカゴに移す。
「1892円です、会員カードもお願いします」
「いつもありがとね、おにいちゃんにやってもらうと元気出るわ」
お会計のあとにそんなことを言ってくれるものだから顔が綻ぶ…のを通り越して、ニヤニヤしちゃってそうだ。

筒井朔人、25歳。
いまの仕事は老舗スーパーのレジ係。
時々は嫌なこともあるけれど、優しいお客様が多くて、スタッフも気のいい人ばかり。
生活がギリギリで貯金がほとんどできないのが難だけど、この仕事が好きだ。

「朔ちゃん、お疲れ〜。来月休みたい日があったらコレに丸付けといて?」
仕事が終わり、休憩室に入ったらレジ長から来月のシフト予定表を手渡された。

……もう7月も半ばか。
あなたが亡くなってから季節が3つ過ぎた。
去年の秋に旦那さんから受け取った空色の封筒は、クリアファイルに入れて引き出しにしまってある。もらったピアスは今日も左耳に2つ。

(……俺もアイス買って帰ろうかな)
頭にもたげかけた喪失感を振り払うべく、無理やり楽しいことを考える。

少し伸びてきた髪、次の休みにカットしてもらわないと。
1つに結んだ髪を結び直しながら思った。
いつかあなたが「きれい」だと言ってくれた髪。

…ダメだ、ひょんな拍子でいくらでもあなたの記憶が浮かんでくる。
ずっとそんな日々を送っていた。

「今日はハーゲンダッツいっちゃおっかな」
1人の休憩室でポツッと呟く。
帰り支度をして、アイス売り場へと向かった。